大阪地方裁判所 平成10年(ワ)9655号 判決 2000年10月12日
原告
和田八蒲鉾製造株式会社
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
小野一郎
同
仲井敏治
同
稲葉宏己
被告
和田八物産株式会社
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
平尾孔孝
主文
一 被告は、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、滋賀県及び和歌山県において、「和田八物産株式会社」の商号中、「和田八」部分の表示を使用してはならない。
二 被告は、
1 別紙被告標章目録記載2ー1ないし3の各標章を被告の食料品、その包装又は被告の食料品を陳列している箱に付してはならない。
2 1記載の各標章を付した、被告の食料品又はその包装を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持してはならない。
3 被告の食料品について1記載の各標章の使用をさせるために、同標章を付した包装用資材、看板及び暖簾を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持してはならない。
4 1記載の各標章を被告の食料品に関する広告、定価表又は取引書類に付して展示し又は頒布してはならない。
三 被告は、二1記載の各標章を付した、食料品、その包装用資材、商品陳列箱、看板及び暖簾を廃棄せよ。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決の第一項ないし第三項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求の趣旨
一 被告は、「和田八物産株式会社」の商号中、「和田八」部分の表示を使用してはならない。
二 被告は、
1 別紙被告標章目録記載の各標章、その他「和田八」を付加して表示する標章を被告の商品、包装用資材、商品陳列箱、看板及び暖簾に付してはならない。
2 1記載の各標章を付した被告の商品、包装用資材、商品陳列箱、看板及び暖簾を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持してはならない。
3 1記載の各標章を被告の商品に関する広告、定価表若しくは取引書類等に付し、又はこれを付した右広告、定価表若しくは取引書類等を展示若しくは頒布してはならない。
三 被告は、二1記載の各標章を付した被告の商品、包装用資材、商品陳列箱、看板及び暖簾を廃棄し、右商品から右標章を抹消せよ。
第二事案の概要
一 前提事実(争いがないか後掲証拠又は弁論の全趣旨により明らかに認められる。なお、以下、書証の掲記は甲1などと略称し、枝番号のすべてを含む場合はその記載を省略する。)
1(当事者)
(一) 原告は、昭和五一年一一月に設立され、蒲鉾、練製品その他食料品の製造、販売を主たる業務内容とする株式会社であり、「和田八蒲鉾」又は「かまぼこの和田八」の名称を使用して蒲鉾及び天ぷらを製造、販売している(以下、原告の製造販売に係る蒲鉾等を「原告商品」という。)。
(二) 被告は、昭和四八年八月に設立され、食料品の製造販売を主たる業務内容とする株式会社であり、平成三年ころから原告商品の販売を行っていたが、平成九年一二月以降、蒲鉾及び天ぷらを自ら製造し、販売している(以下、被告の製造、販売に係る蒲鉾等を「被告商品」という。)。
2 (原告の商標権)
原告は、別紙原告商標権目録記載の商標権を有している(以下、併せて「原告商標権」といい、その登録商標を同目録の番号に従い「原告商標1」等といい、「原告商標2ー1ないし3」を併せて「原告商標2」といい、全体を併せて「原告商標」という。)
3 (被告の行為)
(一) 被告は、「和田八物産株式会社」の商号を使用して営業活動を行うとともに、別紙被告標章目録記載の標章(以下、同目録の番号に従い「被告標章1」等といい、「被告標章2ー1ないし3」を併せて「被告標章2」といい、全体を併せて「被告標章」という。)を被告商品並びにその包装、商品陳列箱、看板、暖簾、広告、定価表及び取引書類等に使用しているか又は当庁平成九年(ヨ)第三二九六号事件の平成一〇年三月一三日付け仮処分決定(甲32)まで使用していた。
(二) 被告は、別紙被告商標権目録記載の商標権(以下「被告商標権1」等といい、全体を併せて「被告商標権」という。)を有している(乙61ないし69)。
二 原告の請求内容
1 請求の趣旨第一項について
「和田八」との原告の営業表示は、原告を表示する営業表示として周知のものとなっているところ、被告商号中の「和田八」の部分は原告の右営業表示と類似し、原告の営業と混同を生じさせるおそれがあるから、不正競争防止法二条一項一号、同法三条一項に基づき、請求の趣旨第一項記載の請求をする。
2 請求の趣旨第二項及び第三項について
(一) 不正競争防止法に基づく請求(主位的)
原告商標とりわけ「和田八」との表示は、原告商品を表示する商品表示として周知のものとなっているところ、被告が被告の商品に被告標章を使用する行為は、原告表示と類似する商品表示を使用し、原告商品と混同を生じさせるおそれがあるから、不正競争防止法二条一項一号、同法三条一項及び二項に基づき、請求の趣旨第二項及び第三項記載の請求をする。
(二) 商標権侵害に基づく請求(予備的)
被告標章は原告商標と類似するところ、被告の商品に被告標章を使用する行為は、被告標章を商標として使用するものであり、原告商標権を侵害するものであるから、商標法三六条一項及び二項に基づき、請求の趣旨第二項及び第三項記載の請求をする。
三 争点
1 請求の趣旨第一項の請求について
(一) 「和田八」との表示は、原告の営業表示として周知性を有しているか。
(二) 被告商号と「和田八」との原告の営業表示は類似し、混同のおそれがあるか。
(三) 被告による被告商号の使用は、不正競争防止法一一条一項二号の自己の氏名を不正の目的でなく使用する場合に当たるか。
(四) 被告による被告商号の使用は、不正競争防止法一一条一項三号の先使用に当たるか。
(五) 被告は被告商号の使用につき、原告から使用許諾を得ているか。
(六) 原告による本件請求は権利濫用か。
2 請求の趣旨第二項及び第三項の請求について
(一) 不正競争防止法に基づく請求について
(1) 原告商標は、原告商品の商品表示として周知性があるか。
(2) 被告は、被告標章を商品表示として使用しているか。
(3) 被告標章は原告商標と類似し、混同が生じるおそれがあるか。
(4) 被告標章の使用は、被告商標権に基づく正当な権利行使として違法性がないか。
(5) 被告標章の使用は、不正競争防止法一一条一項二号の自己の氏名を不正の目的でなく使用する場合に当たるか。
(6) 被告標章の使用は、不正競争防止法一一条一項三号の先使用に当たるか。
(7) 被告標章の使用につき、原告による使用許諾があるか。
(8) 原告の本件請求は権利濫用か。
(二) 商標権侵害に基づく請求について
(1) 被告は、被告標章を商標として使用しているか。
(2) 被告標章は、原告商標と類似するか。
(3) 被告標章の使用は、被告商標権に基づく正当な権利行使として違法性がないか。
(4) 被告標章の使用は、商標法二六条一項一号の自己の氏名若しくは名称を普通に用いられる方法で表示するものか。
(5) 被告標章の使用につき、被告には商標法三二条の先使用権があるか。
(6) 被告標章の使用につき、原告による使用許諾があるか。
(7) 原告の本件請求は権利濫用か。
第三争点に関する当事者の主張
一 請求の趣旨第一項の請求に関する争点について
1 争点1(一)(周知性)について
【原告の主張】
原告は、昭和六年に【C】が和田八蒲鉾店として創業して以来、昭和二七年の法人化を経て今日に至るまで、関西圏を中心として、古くから「和田八」の愛称で、原告商品を百貨店、高級ホテル、高級料亭等に販売してきており、遅くとも昭和四〇年四月までには、「和田八」の表示は原告の営業表示として周知性を獲得していた。
【被告の主張】
(一) 「和田八」の表示が原告の営業表示として周知性を有していることは否認する。
(二) 仮に右が肯定されるとしても、「和田八」という表示が周知性を獲得していったのは、被告が原告商品の販売を開始し、店舗における実演販売や新規販路の開拓による展開を図った平成三年八月以降の被告の活動によるものであって、その時期には、既に被告も、和田八蒲鉾の製造、販売会社としての「和田八物産株式会社」として周知性を取得していた。
また、原告商品の販売は関西地域に限られており、全国的なものではない。
2 争点1(二)(類似性・混同のおそれ)について
【原告の主張】
被告は、原告の周知の営業表示である「和田八」と類似する「和田八物産株式会社」の商号を表示しているのであって、混同のおそれがある。
【被告の主張】
否認する。
被告においては、営業の混同を避けるために、商品及び暖簾等には「和田八物産株式会社」と表示し、原告との区別を明確にしている。
3 争点1(三)(自己の氏名の使用)について
【被告の主張】
(一) 「和田八物産株式会社」との表示は、被告の商号をそのまま営業主体の表示として使用しているものである。
(二) また、被告が被告標章を使用している経緯は争点1(五)(六)に関する被告の主張のとおりであって、被告は自己の商号を不正の目的なく使用している。
原告は種々の点を指摘するが、被告商品のデザイン、形態、名称、商品ラインアップ等は原告のそれらと類似していない。
【原告の主張】
(一) 不正競争防止法一一条一項二号の「自己の氏名」とは自然人の氏名のみをいい、法人の名称は含まれないと解すべきである。
(二) 被告は、従前、原告との間で原告商品に関する継続的売買を行っていたが、右契約が平成九年一二月に終了するや、同月九日に魚肉ねり製品製造業に関する食品衛生法上の免許を取得して被告商品の製造販売を開始した。
また、被告商品の包装用資材に使用されているデザインは、平成九年夏ころまで原告商品について使用されていたものであり、被告商品の商品名、形態及び商品ラインアップも原告のそれらと類似している。さらに、被告が平成九年一二月ころに配布していたチラシやパンフレットは、原告商品の写真を掲載したり、原告商品についてのパンフレットを流用したものであった。
このように、被告には、原告の信用に便乗する不正競争の目的がある。
4 争点1(四)(先使用)について
【被告の主張】
(一) 被告は、昭和四八年八月に、原告の元代表取締役であった【D】によって設立されたものであり、設立時期は原告の設立(昭和五一年一一月)よりも前である。このように、被告は被告商号を原告よりも先に使用してきた。
(二) また、争点1(一)に関する被告の主張のとおり、「和田八」との表示が原告の営業表示として周知性を獲得したとしても、その時期は平成三年八月ころ以降であり、被告による被告商号の使用はそれ以前に開始されている。
(三) 争点1(五)(六)に関する被告の主張のとおり、被告には不正の目的もない。
【原告の主張】
原告及び被告の設立時期については被告主張のとおりであるが、被告は平成に至るまで何らの事業活動を行っていなかった。また、「和田八」の表示が原告の営業表示として周知性を獲得したのは、争点1(一)に関する原告の主張のとおり遅くとも昭和四〇年四月である。
また、争点1(三)に関する原告の主張のとおり、不正競争の目的もある。
5 争点1(五)(使用許諾)及び(六)(権利濫用)について
【被告の主張】
元来、「和田八」の名称を冠するかまぼこを製造販売していたのは、昭和六年に【C】が開業した和田八蒲鉾店であり、それが昭和二七年に株式会社和田八蒲鉾店へと法人化した。その後、右会社は、昭和四八年七月に株式会社和田八へと商号変更がされ、さらに中心人物であった【D】によって、昭和五一年にかけて、被告、原告及び和功株式会社へと暖簾分けがなされた。ここにおいて、原告が製造を担当し、その余の三社が販売及びその促進を担当することとされ、特に被告は、原告の原材料供給部門又は海外展開部門及び販売部門として設立された。
被告は、平成元年ころから、和田八グループの海外事業開発部門であるタイのすり身工場開発事業を行ったが、代表者が【D】から【B】に替わった平成三年以降は、和田八グループの日本全域への新規販売展開部門として、国内の新規販路開拓事業を進めた。
被告の右展開に当たっては、当初は原告商品の仕入、販売を行っていたが、その後、原告やタイ工場から材料を仕入れて被告において製造を行うようになり、平成八年ころからは自ら蒲鉾の製造も開始した。また、右の過程で、被告は、原告と協力の上、原告の取引先に被告の商品を販売するようになった。
このように、原告は、これまで被告における被告商号の使用を当然のものとして承諾してきた。また、それにもかかわらずその使用差止めを求めるのは権利濫用である。
原告主張の解除条件は否認する。
【原告の主張】
(一) 被告の主張は否認する。原告及び被告の設立時期については被告主張のとおりであるが、被告は平成に至るまで何らの事業活動を行っていなかった。また、被告が指摘する和功物産株式会社の設立も昭和五八年五月であって、被告主張の暖簾分けの事実はないし、それらの会社間の具体的取引もない。被告主張のような和田八グループなるものは存在しない。
昭和二七年に法人化された株式会社和田八蒲鉾店は、昭和四八年七月に株式会社和田八へと商号変更がされ、昭和五一年には原告を設立して、原告が製造部門、株式会社和田八が販売部門となった。
被告は、平成五年四月ころから原告商品を卸売りするようになったにすぎない。
(二) 仮に原告において被告商号の使用を黙示に許諾する事実があったとしても、右許諾は、被告が原告商品の卸販売取引を行う限りのものにすぎず、被告が原告商品の取扱いを中止することが解除条件とされていたものにすぎない。そして、原被告間では、被告が代金支払を怠ったことから、平成九年一二月をもって原告商品の販売は中止され、他方被告が自己の製造に係る被告商品の販売を開始した以上、右解除条件は成就し、右黙示の許諾も効力を失った。
二 請求の趣旨第二項及び第三項の請求のうち不正競争防止法違反に係る争点について
1 争点2(一)(1)(周知性)について
【原告の主張】
争点1(一)についての原告の主張のとおり、原告商標はいずれも昭和四〇年四月ころまでには原告の商品表示として周知性を獲得していた。
原告は、平成九年九月から原告商標のデザインを変更したものを使用しているが、それによって原告商標の周知性は失効していない。
【被告の主張】
争点1(一)についての被告の主張に同じ。また、原告は、現在では原告商標を使用していないので、その周知性は失効している。
2 争点2(一)(2)(被告標章の商品表示としての使用の有無)について
【原告の主張】
被告は、前記仮処分決定が出されるまで、被告商品に「和田八物産」等と被告標章を表示していた。
また現在被告は、取引先である各小売店舗に被告独自の販売コーナーを設け、そのコーナーの頭上には需要者の目を惹く態様で大きく「和田八物産」等と被告標章を表示した暖簾ないし看板を掲げ、「和田八物産」等と被告標章を表示した商品陳列箱を設置している。かかる態様での販売は、当該販売コーナーに陳列されている商品が、需要者をして、原告商品であるか被告商品であるかの誤認・混同を生じさせるものであり、まさに、被告標章が被告商品に関して使用されているというべきである。
【被告の主張】
被告は被告標章2を被告商品の製造販売会社の表示として記載しているにとどまり、被告商品について、商品表示として使用しているわけではない。
3 争点2(一)(3)(類似性、混同のおそれ)について
【原告の主張】
(一) 原告商標1と被告商標1は、いずれもいわゆる図形商標であるが、いずれも特定の称呼はなく、また右図形自体から何らかの観念を生じさせることもないことから、専ら外観のみを資料として類否判断すべきところ、両者を全体観察すると、外周部分が「○」であること、及び内部に数個の図形を規則的に配置するという共通した特徴が窺える。そして、内部に配置される図形が、原告商標1は内部を塗りつぶした長方形が縦三列、横二列、計六個を配置しているのに対し、被告標章1は内部を塗りつぶした円形を縦二列、横二列で計四個を配列しているという相違点があるのみであり、両者の外観は極めて類似しているというべきである。
(二) 次に原告商標2と被告標章2については、原告商標2はいずれも「和田八」と認識され、「ワダハチ」と称呼されるのに対し、被告標章2は、書体及び付加されている文字こそ若干異なるものの、いずれもその要部は「和田八」であって、原告商標2と同一ないし類似の称呼・観念を生ずるものであるから、両者は類似する。
(三) そして、原告と被告とは蒲鉾・天ぷら類の製造・販売という点で競業関係にあり、同一の需要者層を対象とするものである。かかる取引の実情に照らしても、一般需要者が、両者の商品表示を類似のものとして受け取るおそれは極めて高く、かかる被告商品が製造、販売されれば、一般需要者をして、その商品の出所につき誤認・混同せしめることは明らかである。
【被告の主張】
(一) 原告商標1と被告標章1とは、専ら外観の類似が問題となるところ、原告商標1は、外側の丸枠の内に、縦二列に三個の矩形が並列的に並べられているが、被告標章1は、外側は丸枠ではなく塗りつぶされており、かつ、その内側もサイコロ形状であって、彼此一見して外観における類似性はない。
(二) 原告商標2と被告標章2とを比較すると、被告標章2は、呼称及び観念において「物産」という文字が一体となって全体が呼称、観念されるものであって、商品名よりは製造者名を表現しているものである。また、外観においても、原告商標2と被告標章2とは明らかに字体が異なっている。したがって、両者は類似しない。
(三) さらに、原告は、平成九年九月から原告商標とは全く別の標章を使用しており、原告商標自体は現在では全く使用していない状況である。したがって、現在の取引事情、使用形態においては、商品の出所を誤認混同せしめるおそれは全くない。
4 争点2(一)(4)(自己の登録商標使用の抗弁)について
【被告の主張】
被告標章の使用は、被告が商標権を有する商標を正当に使用する行為であって、何ら違法性がない。
【原告の主張】
被告商標権は、いずれも不正競争目的をもって出願、登録されたものであるから、被告による被告標章の使用は権利濫用である。
5 争点2(一)(5)(自己の氏名の使用)、(6)(先使用)、(7)(使用許諾)、(8)(権利濫用)について
争点1(三)ないし(六)に関する当事者の主張に同じ。
三 請求の趣旨第二項及び第三項の請求のうち商標権侵害に係る争点について
1 争点2(二)(1)(商標としての使用)について
争点2(一)(2)についての当事者の主張に同じ。
2 争点2(二)(2)(類似性)について
争点2(一)(3)についての当事者の主張に同じ。
3 争点2(二)(3)(自己商標権使用の抗弁)について
争点2(一)(4)についての当事者の主張に同じ。
4 争点2(二)(4)(自己名称の使用)について
【被告の主張】
被告標章2について、争点1(三)に関する被告の主張に同じ。
【原告の主張】
被告標章2の使用は、被告の商号を普通に用いる方法ではない。
また、被告による被告標章2の使用は、争点1(三)に関する原告の主張のとおり、不正競争の目的によるものであるから、商標法二六条二項により、同条一項一号の適用が排除される。
5 争点2(二)(5)(先使用)について
【被告の主張】
被告標章2について、「和田八物産」、「和田八物産株式会社」の表示は、昭和四八年の被告設立以来使用してきており、原告商標2の出願(最も早いものは昭和六二年九月三〇日)当時、周知でもあった。
その他については、争点1(四)に関する被告の主張に同じ。
【原告の主張】
争点1(四)に関する原告の主張に同じ。また、原告商標2出願当時における被告標章2の周知性については否認する。
6 争点2(二)(6)(使用許諾)及び(7)(権利濫用)について
【被告の主張】
争点1(五)(六)に関する被告の主張に同じ。
【原告の主張】
争点1(五)(六)に関する原告の主張に同じ。
第四争点に対する当裁判所の判断
一 請求の趣旨第一項の請求について(争点1)
1 事実経過
証拠(後掲各書証、甲68、乙78、79、証人【E】、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告について
(1) 三重県熊野市<以下略>出身の【C】は、昭和六年五月、兵庫県尼崎市において和田八蒲鉾店を創業し、昭和二三年二月には、大阪市<以下略>に大阪営業所梅田店を開いていたが、昭和二七年五月にこれを法人化し、蒲鉾、練製品、その他食料品等の製造並びに販売を主たる事業目的とする株式会社和田八蒲鉾店を設立して、その代表取締役に就任した(甲2)。右設立に当たって発起人となったのは、【C】、【F】(【C】の長女【G】の夫)、【H】、【I】等七名であった(甲43の1)。
その後、株式会社和田八蒲鉾店は、昭和二八年に大阪高麗橋の三越百貨店に出店、大阪有名大店会に加盟、昭和三八年には大阪梅田地下街(ウメダ地下センター)に出店、昭和三九年に阪神電鉄尼崎駅(尼センデパート)に出店、昭和四四年に阪急電鉄梅田駅地下街(阪急三番街川のあるまち)に出店、昭和四五年に大阪難波地下街(虹のまち)に出店し(甲2)、昭和三四年の第一二回全国蒲鉾品評会及び昭和三五年の第一三回全国蒲鉾品評会において、出品製品が農林水産大臣賞を受賞した(甲67)。
また、昭和四〇年五月には、伊勢新聞紙上において、「和田八”かまぼこ”和田八次郎伝」が五回にわたって掲載された(甲36)。
(2) 株式会社和田八蒲鉾店の代表取締役は、昭和四〇年四月に【C】が死去したことから妻の【J】に交替し(甲42の3)、さらに昭和四八年七月七日には【C】の長男である【D】も代表取締役に就任し(甲42の4)、さらに同日、株式会社和田八蒲鉾店は、株式会社和田八へと商号を変更した(甲42の1、44の1、乙1の1)。
【D】は、昭和五一年一一月四日に株式会社和田八の代表取締役を辞任して、代わりに【F】が同社代表取締役に就任し(甲42の6)、同月六日に原告(和田八蒲鉾製造株式会社)が設立された(甲1の1、乙4)。原告の設立に当たって発起人となったのは、株式会社和田八、【D】、【J】、【K】、【F】、【I】及び【H】の七名であり、発行株式総数一万株のうち、株式会社和田八が六〇〇〇株を、【D】が二〇〇〇株を引き受け、その余の株式をその余の発起人(いずれも当時の株式会社和田八の取締役又は監査役でもあった)が引き受けて、代表取締役に【J】及び【I】が就任した(甲42の5及び6、甲43の3、乙5の1)。また、原告と株式会社和田八の本店所在地は同一(兵庫県尼崎市)である。
この原告の設立は、株式会社和田八のうちの製造部門を独立させたもので(甲44の3)、その事業目的は蒲鉾、練製品その他食料品等の製造とされ(甲43の3)、他方原告設立に伴い、昭和五一年一〇月九日、株式会社和田八の事業目的は蒲鉾、練製品その他食料品等の販売に変更された(甲44の2)。
【D】は、その後しばらく原告及び株式会社和田八の経営から離れていたが、昭和五九年一〇月三〇日に原告の代表取締役に追加された(甲1の8、乙5の5)。
この間、原告及び株式会社和田八(以下「原告ら」ということがある。)は、昭和五〇年に大阪難波高島屋に出店、昭和五四年いかりスーパーと取引を開始、昭和五八年に大阪梅田大丸百貨店に出店、昭和六〇年に西武百貨店関西と取引開始と営業を拡大し、同時に、つる家、吉兆等の関西の料亭や、ロイヤルホテル、ホテルプラザ等の関西のホテルとも取引を行っていった。もっとも、原告らの取引先は、昭和五五年ころまでは料亭が主体であり、百貨店及びスーパー等への販売が増加していったのは昭和五五年ころ以降のことである(甲2、73)。
また、原告商品は、昭和五五年の第三三回全国蒲鉾品評会において宮城県知事賞を、昭和六二年の第四〇回全国蒲鉾品評会において新潟県知事賞を、昭和六三年の第四一回全国蒲鉾品評会において水産庁長官賞を受賞し、その後もほぼ毎年のように各種品評会において賞を受賞した(甲24)
(3) 【D】は、【J】及び【I】と共に原告の代表取締役の地位にあったが、【I】は平成元年一〇月三〇日に退任し(甲1の10)、【J】は平成二年八月一〇日に死亡した(甲1の11)ことから、原告の唯一の代表取締役となり、その後平成九年二月八日に死去するまで代表取締役の地位にあった(甲1の14)。【D】の遺産は、【C】の二女で【D】の妹の【E】が単独で相続することとなり(乙71)、原告らの経営も同人とその一族が実質的に承継した(甲2)。
原告らは、従前株式会社無?庵宗家との間で顧問契約を結び、同社が作成した標章及びデザイン(原告商標を含む〔ただし原告商標2ー3を除く〕。)をパンフレット等に使用してきたが(甲12の3、甲25、56)、【D】の死後の平成九年三月に右契約を解除し、商品包装やカタログ等のデザインを一新し、原告商標2ー3等を使用し始めた(甲12の1、乙9、10)。
(4) 原告の売上高は平成九年が九億七三〇〇万円、平成一〇年が七億三〇〇〇万円で全国の蒲鉾メーカーの中の売上高順位は一一四位であり(甲72)、主たる販売先は、株式会社和田八(直営店として尼崎武庫店、新地店、三番街店、ホワイティ梅田店、なんばウォーク店、尼センデパート店、OPA三宮店、アステ川西店、JR京都伊勢丹店)、阪神百貨店、大丸(梅田店、神戸店)、三越(大阪店)、西武(宝塚店)、高島屋(大阪店、京都店、洛西店)、阪急(梅田店)、生活協同組合コープこうべ、つる家、吉兆、播半、花外楼、ロイヤルホテルである(甲2)。
なお、原告と株式会社和田八との販売面での役割分担は、主としてスーパー及び百貨店への原告商品の販売は原告が担当し、料亭への原告商品の販売は株式会社和田八が担当するという分担となっている(甲73)。また、昭和五二年から平成九年までの原告らの取引先を見ると、全八〇程度の取引先のうち、関西地域以外のものは、高島屋岐阜店、同岡山店、三越東京店、東京美味販売㈱、パルコ名古屋店、岡森といったものに限られている(甲73)。
(二) 被告について
(1) 被告は、昭和四八年八月一三日に設立され、全発行株式一万株のうちの三〇〇〇株を【D】が引き受けて、代表取締役に就任した(甲4の1、甲51)。被告の事業目的は、主として、①生鮮及び加工水産物の輸入並びに販売、②一般雑貨の輸入並びに販売、③木材の輸入並びに販売とされ、他の五名の取締役及び一名の監査役のうち当時の株式会社和田八の取締役又は監査役と兼任しているのは、【D】の弟である【K】のみであり、他は【D】の甲南大学時代の友人であった(甲4の1)。また、その本店所在地は大阪市<以下略>の税理士事務所所在地であった。
被告は、設立当初に象の足の剥製(甲37)など民芸品の輸入を行っていたが、初年度に約四九七万円の赤字を出した後休業し、会社としての実体を有しない状態となり、休業は平成三年七月期まで続いた(甲5ないし7)。
しかし、平成三年九月一日に現在の被告代表者が【D】に依頼されて代表取締役に就任して以降(乙3の10)、被告は、原告から材料のすり身を仕入れてスーパー等における実演販売を行うとともに、原告商品を購入してスーパー等に販売を行うようになり、次第に関東地方のスーパーとの取引も行うようになった。この取引においては、取引先とは被告名義の取引口座で契約がなされており(乙55ないし59)、のぼりや看板等にも被告の名前が記されていた。
また被告は、タイのすり身工場からすり身を輸入して原告に販売する業務のほか、海外から魚介類を輸入する事業も行っていた。
(2) 被告は、その事業を【D】と相談、連絡しながら行っていたが、前記のとおり、【D】は平成九年二月に死去するに至り、それを境に原告と被告の間の連絡が希薄となった。そして、同年九月ころ、原告は、被告に対し、原告商品の販売価格の値上げを申し入れてきた。すなわち、従前は、原告が被告に原告製造に係る蒲鉾等を販売する場合の価格は、①すり身については被告の販売価格の七割、②原告商品については同六割を基本としていたが、原告は、被告を介さずに直接百貨店等に販売する場合には小売価格の七割を卸売価格としていたことから、被告との関係でも原告商品の卸売価格を被告販売価格の七割とするよう申し入れたものであった。しかし、これに対して被告は同意せず、また、同年七月及び八月分の購入代金の支払をしなかったことから、原告は、被告に対して、催促の上、同年一二月五日に右契約を解除し(甲11、乙47、48)、原告と被告との間の取引は途絶した。
(3) 被告は、【D】死後の平成九年六月一六日に被告商標権1、2、4、5を出願し、また同年一二月九日に大阪市長から、魚肉ねり製品製造業についての食品衛生法上の営業許可を受け(甲13)、そのころから、大阪市<以下略>の工場において蒲鉾及び天ぷらの自家製造、販売を開始した。
また、被告は、原告が契約を解除した株式会社無?庵宗家と契約を締結し、同社が提供する標章及びデザインを被告商品の包装やカタログに使用した(甲18、乙10ないし46)。
被告は、当初、被告商品に被告標章を付して販売するとともに、暖簾、看板、陳列棚に被告標章を付して展示していたが、前記仮処分決定(甲32)後は、被告商品に被告標章を付することを中止した。
(4) 現在の被告による被告商品の販売は、大阪市<以下略>に工場を構え、同所と東京の松屋デパートに直営店を構えて販売するとともに、近畿一円と関東方面のスーパー等に卸販売をしている。
(三) 株式会社和功物産について
株式会社和功物産は、昭和五八年五月九日、生鮮食料品の輸出入業並びにそれらの製造、販売等を事業目的として設立された会社であり、本店を京都市<以下略>に置き、【L】(【D】の妻)が代表取締役となり、【D】も取締役に就任していたが、他に原告らの役員が取締役等に就任することはなかった。
株式会社和功物産は、京都に店舗を構え、原告から蒲鉾等を購入して販売していたが、平成九年二月に【D】が死去した後の同月二八日に解散した(甲34、乙80)。
2 争点1(一)(周知性)について
(一) 1で認定した事実からすれば、【C】を創業者とする和田八蒲鉾店の営業は、昭和二七年以降は法人化した株式会社和田八蒲鉾店(昭和四八年七月以降は株式会社和田八)に承継され、さらに昭和五一年一一月以降は、原告と株式会社和田八とが一つのグループとなって承継し、現在に至っているものと認められる。そして、先に認定した右営業の展開の状況からすると、遅くとも百貨店及びスーパー等への販売が拡大していった昭和五〇年代後半から昭和六〇年代前半ころ、大阪市及びその周辺部(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県)において、被告商品の主たる営業対象であるスーパー等の需要者の間で、原告らの営業表示に共通する「和田八」との表示が原告らの営業を表示するものとして広く認識され、周知性を獲得するに至ったと認めるのが相当である。
この点について原告は、「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を獲得したのは昭和四〇年四月ころであると主張するが、当時の株式会社和田八蒲鉾店の営業は、三つの直営店と料亭への販売のほか、百貨店関係では三越大阪店への販売を行うにとどまっていたから、その時点において、被告商品の主たる顧客層であるスーパー等を通じた需要者の間における周知性を認めるのは、前記地域においても困難である。原告が指摘するように、甲36の伊勢新聞の記事では、昭和四〇年五月までの間に、株式会社和田八蒲鉾店の販路は大阪はもちろん中部日本から関東一円へ伸びて、「和田八かまぼこ」は押しも押されもせぬ日本一の蒲鉾に大成した旨の記載があるが、右の記事は【C】の出身地の地方新聞である伊勢新聞が同人の死去の機会に郷土出身者の伝記を掲載したものであって、多分に故人を称える性質を有しているというべきであるから、右の記載に基づいて周知性の獲得を認定することはできない。
また、前記認定のとおり、原告らの直営店はすべて大阪市及びその近郊に所在しており、主たる取引先もほとんどが大阪市を中心とする近畿圏に存しており、近畿圏以外での取引先が少数にとどまる上、平成九年及び同一〇年における全国の蒲鉾メーカー中の売上高順位が一一四位にとどまっていることからすれば、現時点においても、「和田八」との表示が原告らの営業を表示するものとして周知性を獲得するに至っている地理的範囲は、前記記載の府県の範囲にとどまるものと認めるのが相当である。
この点について原告は、甲62ないし66の証明書を提出するが、それらはいずれも印刷された定型用紙に各証明者の記名ないし署名がなされているのみであること、その内容を見ても、大阪及びその近郊が多くを占めている上、それ以外の地域では、例えば高松市や宇部市といった特定の地域への集中が見られることから、基本的に右証明書に依拠して周知性の範囲を認定することは相当でない。
(二) ところで被告は、被告は原告ら及び株式会社和功物産と共に和田八グループを構成しており、【C】を創業者とする和田八蒲鉾の製造、販売のうちの原料輸入及び販売部門を担当していたと主張する。この主張は、「和田八」との営業表示は、右の和田八グループの営業表示であって、そのグループの中には被告も入っているから、「和田八」との営業表示は他人の営業表示ではないとの趣旨と解される。
しかし、前記認定のとおり、原告と株式会社和田八とは、原告設立の経緯、出資状況、役員の状況、本店所在地等からして、一体といえるほど強固な結びつきを有しているのに対し、被告においては、当時の株式会社和田八の代表者であった【D】が主体となって設立したものであることは推認し得るものの、設立の理由も定かではなく、また設立当初の事業内容は蒲鉾の製造、販売とは全く無関係なものであり、役員関係や本店所在地も全くつながりがなく、さらに設立直後から一五年以上も休業状態となっていたのであって、「和田八」の表示が周知となった時点においては、およそ原告らと営業上のグループを形成していたと認めることはできない。
もっとも、現在の被告代表者が代表取締役に就任した平成三年九月以降は、【D】との連絡の下で、原告が製造した蒲鉾等の販売を行ったり、タイの工場で製造したすり身を輸入して原告に販売していたことから、右の時点以降は、既に「和田八」として周知性を獲得していた原告らのグループの一員に加わったと見ることができる。
しかし、右のような原告らとのつながりも平成九年一二月ころに途絶し、原告らとは全く独立に蒲鉾等の製造、販売を開始し、むしろ原告らと市場で競争する関係に立つに至った以上、被告は原告らのグループから離脱したというべきであるから、現在では、「和田八」の営業表示が周知性を有するものとして通用する営業主体の中に被告が含まれていると認めることはできない。
3 争点1(二)(類似性、混同のおそれ)について
先に述べたとおり、「和田八」は、原告らの営業表示として周知性を有するところ、そこからは「わだはち」との称呼が生じるものと認められる。
他方、被告の商号の「和田八物産株式会社」は、「わだはちぶっさんかぶしきかいしゃ」との称呼を生じると認められるが、このうち「株式会社」は会社の種類を示すにすぎないから識別性に乏しい語であり、また、「物産」も、商社的な取引を業とする企業において「○○物産」という商号を使用することは世上ありふれたことであるから識別性に乏しい語というべきであり、これらからすれば、被告の商号においては、語頭部分の「和田八」に主要な識別力があり、そこから「わだはち」の称呼が生じるものと認められる。
したがって、被告の商号は「和田八」という原告の営業表示と類似するというべきであり、また両者は同種の商品を製造、販売していることから、被告も原告らのグループ企業であると誤認混同されるおそれがあるというべきである。
4 争点1(三)(自己の氏名の使用)について
不正競争防止法一一条一項二号は、同法二条一項一号の不正競争に関し、「自己の氏名」を不正の目的でなく使用する場合を適用除外としているが、この趣旨は人が自己の氏名を使用することには人格権的な側面があることに配慮したものであるから、「自己の氏名」とは自然人の氏名をいい、法人の商号は含まれないと解するのが相当であり、このように解することが「氏名」という文言にも適合する。
したがって、本件においては、被告に右規定の適用はない。
5 争点1(四)(先使用)について
不正競争防止法一一条一項三号は、同法二条一項一号の不正競争に関し、「他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者」について、差止請求等の規定の適用除外を定めているところ、本件において「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を獲得するに至ったのが昭和五〇年代後半ないし昭和六〇年代前半ころと認められるのは前記のとおりである。そうすると、被告の設立は昭和四八年であるから、形式的には被告は「和田八」の表示が周知性を獲得する前から自己の商号を使用していることになる。
しかし、同法一一条一項三号が先使用を適用除外としたのは、特定の商品等表示が周知性を獲得する以前からそれと同一又は類似の商品等表示を使用している者に対し、その後に他人の商品等表示が周知になったからといってその表示の使用を禁止したのでは、余りに法的安定性を欠き、先使用者に酷となるからである。この趣旨に照らせば、本件のように、形式的な設立は周知性獲得の前であっても、ほとんど営業活動を行わずに長期間休業し、活動を再開したのは他人の周知性獲得後であるという場合には、混同のおそれが生じることを犠牲にしてまで保護すべき使用の実体が存しないから、本号の適用はないと解するのが相当である。
したがって、本件においては、被告に右規定の適用はない。
6 争点1(五)(使用許諾)及び(六)(権利濫用)について
(一) 前記認定事実によれば、被告は平成三年九月以降、営業活動を再開し、それについては当時の原告の代表取締役であった【D】と連絡、相談しながら進めており、さらに平成九年一二月までは原告との間で原告の製造に係る蒲鉾等の売買が行われていたのであるから、原告は、被告が「和田八物産株式会社」の商号を使用して営業活動を行うことを承諾していたと推認するのが相当である。
この点について証人【E】は否定する証言をするが、同証言によれば、同人は平成九年二月に【D】が死去するまでは原告の経営に直接関わっていなかったと認められるから、右証言は採用できない。
(二) もっとも、被告が営業活動を再開した時点では、「和田八」の表示は原告らの営業表示として周知性を獲得するに至っていたから、原告らが、【C】の創業以来信用を築いてきた「和田八」の表示を、全くの無条件で被告に使用許諾をしていたとは到底考えられない。当時被告は、原告が製造する蒲鉾やすり身を購入し、実演販売等によって販売することを主たる営業活動としており、そのような状況下で、前記のような使用許諾が行われていたことからすれば、被告が「和田八物産株式会社」との商号の使用許諾を受けていたのは、あくまで被告が、原告の製造する蒲鉾等の販売を行って、その販売の拡大の努力をするというように、原告らのグループの一員と見得るような関係にあることが前提であって、被告が原告らのグループ関係から離脱することを解除条件とするものであったと推認するのが相当である。したがって、平成九年一二月ころに原告と被告との取引が途絶し、かつ被告が蒲鉾等の自社製造を開始して原告らと競争関係に立つに至った時点で、右使用許諾は条件成就により失効したものというべきである。
(三) この点について被告代表者本人は、従前から被告は、原告商品を購入する以外に、自己の企画商品を原告に委託製造させており、被告が開拓した取引先との関係では被告の名義で被告の商品として取引していたと供述する。その趣旨は、原告は、被告が和田八物産株式会社の商号を使用して独自の商品を販売することを許諾していたという点にあるものと解される。
しかし、仮にそうであるとしても、被告は原告の製造した蒲鉾等を販売し、その取引の拡大に努力しているのであり、被告が原告らのグループから離脱して原告らと競争行為を行っているわけではないから、前記解除条件が付されていたと認めることの妨げになるものではない。さらに、被告が自己の名義で取引先と取引を行っていたことは、誰の商品を扱うかにかかわらず、独立の法人格を有する以上当然のことであって、特段の意味を持たないというべきであるし、取引先も、「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を有している地域内では、被告が販売する蒲鉾等は要するに原告らのグループの商品であると認識されていた可能性が十分に考えられる。以上からすれば、右被告代表者の供述に基づいて、原告が、被告が原告らとの関係を離脱して独自商品を展開することまで許諾していたと認めることはできない。
(四) また、右のとおり原告による使用許諾には解除条件が付されていたと認められるから、原告らとの取引関係が途絶して独自の競争を開始した被告に対して、原告が「和田八」の使用の差止めを求めることは、権利の濫用とはいえない。
確かに、被告自身も平成三年九月以降、「和田八物産株式会社」の商号によって営業活動を展開してきたのであるから、その使用を止められた場合の打撃には少なからぬものがあると考えられる。また、被告が原告らとの関係から離脱するに至った経緯次第によっては、原告による被告商号の使用差止請求が権利の濫用と評価される場合も考えられないわけではない。
しかし、被告が被告の商号を使用して実質的に営業活動を開始したのは、「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を獲得した後であったのであり、それにもかかわらず被告商号を使用できたのは、原告商品の販売を行うことによって、原告らのグループの一員となったからである。にもかかわらず、原告らと競争行為を開始した以上、もはや原告の周知地域内で従前の被告商号を使用し得なくなり、損害が生じるとしても、それは甘受すべき性質のものである。
また、被告が原告らのグループから離脱するに至った経緯を見ても、原告が原告商品の卸売価格を一方的に値上げしてきた面があることは否定し得ないものの、原告としては採算上、他の取引先に対する価格に合わせるという面もあったこと、そもそも【D】の死去によって原告らと被告との間の関係が疎遠になり、相互の信頼関係が希薄になっていたことが背景にあることからすれば、本件における原告による値上げとそれに続く解除が、権利濫用を基礎付けるほど不当なものであるとはいえない。
そして、以上の認定及び判断は、口頭弁論終結後に提出された乙84によっても左右されない。
7 まとめ
以上によれば、請求の趣旨第一項の請求は、「和田八」の表示が原告の営業表示として周知性を有すると認められる主文第一項記載の地域における使用の差止めを求める限度で理由がある。
二 請求の趣旨第二項及び第三項の請求のうち、不正競争防止法に基づくものについて(争点2)
1 争点2(一)(周知性)について
先に一1で認定した事実及び甲56によれば、原告は、従前から「和田八」の標章を使用していたが、原告商標2(ただし別紙原告商標権目録2ー3記載のものを除く。)の各出願時ころにおいて、各字体に係る原告商標の使用を開始したものと認められる。そして、「和田八」との原告の営業表示が、前記のとおり昭和五〇年代後半から昭和六〇年代前半ころに、スーパーや百貨店等の需要者の間で、前記地域において周知性を有するに至ったものと認められることからすれば、漢字で「和田八」と表記した原告商標2についても、使用開始後間もなく(原告商標2ー1は平成元年ころ、同2ー2は昭和六二年ころ)、原告の商品表示として前記地域において周知性を有するに至ったものと推認され、現在においても、原告商標2ー3を含めて、主文第一項掲記の地域において周知性を有しているものと認められる(なお、原告商標1については判断を留保する。)。
もっとも、先に一1で認定したとおり、原告は、平成九年九月に使用する標章及びデザインを変更し、それ以降は原告商標2(ただし別紙原告商標権目録2ー3記載のものを除く。)自体は使用していない。しかし、原告は、それ以後も字体を変更したにすぎない原告商標2ー3を使用しており、「和田八」の標章を継続して使用していることに変わりはないから、使用中止から三年しか経過していない現時点においては、なお原告商標2全体の周知性は喪失されていないというべきである。
2 争点2(一)(2)(被告標章の商品表示としての使用)について
(一) ある標章が商品表示として使用されているか否かは、当該標章が商品の出所を表示する機能を有する形態で使用されているか否かによって判断するのが相当である。
(二) 甲18、19によれば、従前、被告標章1及び同2ー1は、被告商品の包装に大きく記載されていたことが認められ、この態様によれば、右標章が被告商品の出所を表示する機能を有していることは明らかである。
また、甲19ないし22、38によれば、被告標章2は、いずれも被告商品の陳列棚内の陳列箱、暖簾や看板に大きく表示されていることが認められ、この態様によれば、右標章が被告商品の出所を表示する機能を有していることは明らかである。
この点について被告は、被告標章2はいずれも製造販売者の営業表示として記載されていると主張するが、そういう側面があることは否定し得ないにせよ、同時に商品の出所を表示する機能をも有している以上、商品表示として使用されていることに変わりはない。
(三) したがって、被告標章はいずれも被告商品の商品表示として使用されているというべきである。
3 争点2(一)(3)(類似性・混同のおそれ)について
(一) 原告商標1と被告標章1について
原告商標1は、黒く縁取った円の内部に、黒色の長方形を縦三列、横二列に配置してなるものであり、被告標章1は、黒く塗りつぶした円の内部に白色の正方形を円に接して配し、右正方形の内部に黒円を縦二列、横二列に配してなるものである。
両者からは、共に特段の称呼及び観念は生じないから、外観の類似性が問題となるところ、両者は共に外円の内部に数個の図形を規則的に配置するという点では共通しているものの、外周の円の内部に図形を描くという商標は比較的ありふれているというべきであるから、この共通点をさほど重視することはできない。他方、外周円の内部の図形は、原告商標1では長方形が六個配されて全体として四角形状の印象を与えるのに対し、被告標章1では白い正方形の中に黒円を四個配していることから、外周の黒く塗りつぶした円と内部の四個の黒円が、中間の白色の正方形と明瞭なコントラストをなして、全体として円形状の印象を与えると認められ、この相違点は、需要者に大きな印象の相違を与えるというべきである。
そうすると、原告商標1と被告標章1とは、相違点の印象が共通点の印象を凌駕しており、両者は類似しないというべきであるから、その余の点について検討するまでもなく、被告標章1の使用差止め等を求める請求は理由がない。
(二) 原告商標2と被告標章2について
原告商標2はいずれも外観上の字体は異なるが、「わだはち」との称呼を生じると認められる。なお、原告商標2ー1は、中央の文字は通常の「田」の字とは異なるが、横棒が一本多く記されているにすぎないから、全体として「和田八」と認識されるものと認められる。
他方被告標章2は、特異な字体で「和田八物産」、「和田八物産㈱」と横書きしたなるもの、又は通常の字体で「和田八物産株式会社」と横書きしてなるものであるところ、前記のとおり「物産」、「株式会社」との記載は識別性に乏しい表示であるから、被告標章2の要部は「和田八」であり、「わだはち」の称呼を生じるものと認められる。
したがって、両者は称呼が共通するから、類似するというべきである。
(三) そして、原告商品も被告商品も蒲鉾や天ぷらについて使用されており、スーパー等で販売される形態も同じであるから、被告商品について被告標章が使用されることによって、原告との間で出所の混同が生じるおそれが十分にあるというべきである。
この点について被告は、原告商標2ー1及び2ー2は現在では使用していないから混同のおそれはないと主張する。しかし、前記のとおり、右原告商標は現在でもなお原告の商品表示として周知性を有していると認められるから、現に原告が右商標そのものを使用していないとしても、混同のおそれは否定できないというべきである。
4 争点2(一)(4)(自己の登録商標使用の抗弁)について
前記のとおり、被告は、かまぼこを指定商品に含み、また、かまぼこ料理の提供等を指定役務に含む「和田八物産」、「鉾処和田八物産」との商標権(被告商標権1、2、4、5)を有している(なお、その余の被告商標権は被告商品を始めとする食料品に対する被告標章の使用とは関係がないと認められる。口頭弁論終結後に提出された乙85の異議の決定によって登録を維持された被告商標権7についても同様である。)。
しかし、右被告商標権に係る商標の商標登録出願日はいずれも平成九年六月一五日であるところ、右時点では原告商標(指定商品は加工食品)が既に出願、登録されていたものであり、被告商標権に係る商標はいずれも「和田八」を要部とするものであることが明らかであるから、右商標は、原告商標と類似するものと明らかに判断される。そうすると、被告商標権に係る商標登録は、原告商標の指定商品及び指定役務と類似する商品及び役務に関する限り、商標法四六条一項一号、四条一項一一号所定の無効事由を有することが明らかであるといわざるを得ない。
したがって、右のように無効事由を有する商標権の行使をもって、不正競争防止法上の差止請求に対する抗弁として主張することは、権利の濫用として許されないというべきである。
5 争点2(一)(5)(自己の名称の使用)について
先に争点1(三)について述べたとおり、本件においては、被告に不正競争防止法一一条一項二号の適用はない。
6 争点2(一)(6)(先使用)について
先に争点1(四)について述べたとおり、被告は、昭和四八年に設立されたものの、長期間休業状態にあり、営業活動を再開してかまぼこ等の販売を始めたのは、原告商標(原告商標2ー3を除く。)が周知性を獲得した後であるから、不正競争防止法一一条一項三号の適用はないと解するのが相当である。
7 争点2(一)(7)(使用許諾)及び(8)(権利濫用)について
本争点については、先に争点1(五)(六)について述べたのと同様、原告は従前、被告に対して被告標章2の使用許諾を与えていたものと見られるが、それは被告が原告らのグループの一員として原告商品の販売の拡大に努める関係にあったことが前提であり、被告が右グループから離脱し、被告商品を製造、販売して原告らと競争関係に立つに至ったことによって、解除条件が成就し、右使用許諾は効力を失ったというべきであり、また、被告が右グループから離脱した経緯をもって、必ずしも本件請求が権利の濫用になるともいえない。
8 差止めの必要性がある範囲について
前記のとおり、被告は現在では被告商品に被告標章2を使用することを中止しているが、それは前記仮処分決定に基づくものにすぎないから、被告商品について被告標章2を使用することを差し止める必要性はなお存するものというべきである。
また、被告が被告標章2を使用する商品として証拠上明確に認められるのは蒲鉾及び天ぷらのみであるが、前記認定のとおり被告は魚介類の輸入、販売も行っており、また最近登録された被告商標権の指定商品には一般の食料品が幅広く含まれているから、被告は蒲鉾や天ぷら以外にも被告標章2を使用する意思を有しているものと認められる。そして、原告商標が原告の出所を表示するものとして周知性を有する商品は蒲鉾及び天ぷらのみであるが、被告標章2が食料品について使用される場合には、原告との間で出所の混同が生じるおそれがあると認められるから、食料品一般について被告標章2の使用の差止めを認める必要性があるというべきである。
原告は、請求の趣旨第二項において、被告標章目録記載の各標章のほか、「その他『和田八』を付加して表示する標章」の使用差止めも求めているが、被告標章以外に「和田八」を付加して表示する標章を被告が現に使用し又は使用するおそれがあることの具体的立証はないから、右部分の請求は理由がない。
9 まとめ
以上によれば、請求の趣旨第二項及び第三項の請求のうち不正競争防止法に基づくものは、被告が、主文第一項記載の地域において、主文第二項記載の行為の差止め(請求の趣旨第二項の請求のうち主文第二項に記載のない行為は、不正競争防止法二条一項一号が定める行為類型に該当しない。)及び主文第三項記載の廃棄を求める限度で理由がある。
ところで、請求の趣旨第二項及び第三項についての原告の請求は、不正競争防止法に基づくものを主位的請求とし、商標権侵害に基づくものを予備的請求としているが、その趣旨は、主位的請求が全部認容されない場合は、両請求のうち差止めを広く認め得るものを優先的に主張する趣旨であると解されるから、次に、商標権侵害に基づく請求について検討する。
三 請求の趣旨第二項及び第三項の請求のうち商標権侵害に基づくものについて(争点2(二))
1 争点2(二)(1)(商標としての使用)について
ある標章が商標として使用されているか否かは、当該標章が当該商品の出所を表示する機能を発揮しているか否かによって判断すべきところ、争点2(一)(2)のとおり、被告標章2はいずれも被告商品について被告の出所を表示する標章として使用されているから、商標として使用されていると認められる(なお被告商標1については判断を留保する。)。
2 争点2(二)(2)(類似性)について
争点2(一)(3)のとおり、被告標章1は原告商標1と類似せず、被告標章2は原告商標2と類似すると認められる。したがって、被告標章1に対する使用差止め等を求める請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
3 争点2(二)(3)(自己の商標権使用の抗弁)について
先に争点2(一)(4)について述べたとおり、本件において被告が商標権侵害に基づく差止請求に対する抗弁として被告商標権の行使の抗弁を主張することは、権利の濫用として許されないというべきである。
4 争点2(二)(4)(自己の氏名の使用)について
(一) 商標法二六条一項一号は、自己の氏名に加えて自己の名称等を普通に用いられる方法で表示する商標については、商標権の効力が及ばないと規定しているところ、右の「自己の名称」には、法人の商号が含まれるものと解されるから、被告による被告標章の使用が、被告の商号を「普通に用いられる方法で表示する商標」である場合には、同項の適用が認められる。
(二) ある標章が当該法人の商号を「普通に用いられる方法で表示する商標」であるか否かは、取引の実情に照らして、標章の内容や表示の態様等が、通常の取引業者が自己の商号を表示する際の一般的な表示方法と同列のものと認められるか否かによって判断すべきであると解するのが相当である。
(1) 甲18及び19によれば、被告は従前、被告商品に被告標章2ー1を使用していたことが認められるが、そこで使用された被告標章2ー1は、商品の前面に「白天」や「生姜天」といった商品の種類を示す表示と共に大きく表示され、しかもロゴ化された独自の字体を使用していると認められるから、これは、通常の取引業者が自己の商号を表示する際の一般的な表示方法と同列のものと認めることはできない。
(2) 甲19ないし22によれば、被告は、スーパー等における被告商品の陳列棚において、陳列箱、暖簾及び看板に被告標章2を記載していることが認められる。
このうち被告標章2ー1及び2ー2については、ロゴ化された独自の字体を使用して、特に一般需要者の注意を惹くように表示していると認められるから、これは、通常の取引業者が自己の商号を表示する際の一般的な表示方法と同列のものと認めることはできない。
他方、被告標章2ー3については、単に「和田八物産株式会社」と通常の字体で記載されているにすぎず、また、一般にスーパーや百貨店において、ある業者向けの売場スペースが設けられている場合には、その業者の商号が掲示されるのも通常見られるところである。しかし、甲21の17、甲22の5、甲38に見られるような被告標章2ー3の使用態様は、独自の図形標章及び独自の字体に係る「傳承鉾処」の文字と共に記されており、しかも図形標章は大きく、「傳承鉾処」の文字が小さく記され、被告商号は大きく記されていることから、「株式会社」が小さく記されていることと相まって、全体としては、図形標章と「和田八物産」とが一体のものとして目立つ印象を与えるものとなっていると認められ、このような表示態様は、通常の取引業者が自己の商号を表示する際の一般的な表示方法と同列のものと認めることはできない。
(3) したがって、被告標章2が「普通に用いられる方法」で使用されているとはいえない。
(三) また、先に述べたとおり、被告が休業状態を脱し、営業活動を再開した時点では、既に原告商標権は登録され、「和田八」との表示は原告の営業表示及び原告商品の商品表示としての周知性を獲得していたのであり、それにもかかわらず被告がかまぼこ等を販売するについて被告商号を使用し得たのは、被告が原告らのグループにあることを前提として原告から使用許諾を受けていたからなのであるから、被告が原告らのグループから離脱して原告らと競争関係に立つに至った以上、被告がその商号を使用し得る根拠はなくなったというべきであり、それにもかかわらず被告が被告商号を使用して被告商品の製造、販売を行うことは、たとえ【D】が名付けた商号をそのまま使用しているという事情があるにせよ、「和田八」との表示に化体された原告らの信用を不当に利用するものとして、不正競争の目的(商標法二六条二項)があるというべきである。
(四) したがって、被告の自己の名称使用の主張は理由がない。
5 争点2(二)(5)(先使用)について
争点2(一)(6)のとおり、被告が自らが販売する蒲鉾等に被告標章2を使用し始めたのは、原告商標権2ー1及び2ー2が登録された後のことであるから、被告の先使用の主張は採用できない。
6 争点2(二)(6)(使用許諾)及び(7)(権利濫用)について
本争点については、先に争点1(五)(六)について述べたのと同様、原告は従前、被告に対して被告標章2の使用許諾を与えていたものと見られるが、それは被告が原告らのグループの一員として原告商品の販売の拡大に努める関係にあることが前提であり、被告が右グループから離脱し、被告商品を製造、販売して原告らと競争関係に立つに至ったことによって、解除条件が成就し、右使用許諾は効力を失ったというべきであり、また、被告が右グループから離脱した経緯をもって、必ずしも本件請求が権利の濫用になるともいえない。
7 差止めの必要性がある範囲について
被告商品について被告標章2を使用することを差し止める必要性がなお存すること、被告標章以外に「その他『和田八』を付加して表示する標章」の使用差止めを求める必要性が認められないことは、先に述べたのと同様である。
また、被告が蒲鉾や天ぷら以外の食料品一般にも被告標章2を使用する意思を有しているものと認められることも先に述べたとおりであるところ、原告商標権2ー1及び2ー2はいずれも旧三二類(食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品〔他の類に属するものを除く〕)を指定商品としており、食料品一般について商品の類似性を認めることができる。したがって、原告は、食料品一般について被告標章2の使用の差止めを認めることができるというべきである。
8 まとめ
(一) 以上によれば、請求の趣旨第二項の請求のうち商標権侵害に基づき認められるものは、次のとおりとなる。
(1) 被告が、被告標章2を被告の食料品、その包装又は被告の食料品を陳列している箱に付する行為は、商標法三七条一号、二条三項一号に該当する。
(2) 被告が、被告標章2を付した、被告の食料品又はその包装を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために展示する行為は、商標法三七条一号、二条三項二号に該当し、それらを譲渡又は引渡しのために所持する行為は同法三七条二号に該当する。
(3) 被告が、被告の食料品について被告標章2の使用をさせるために、同標章を付した包装用資材、看板及び暖簾を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為は、商標法三七条六号に該当する。
(4) 被告が、被告標章2を被告の食料品に関する広告、定価表又は取引書類に付して展示し、又は頒布する行為は、商標法三七条一号、二条三項七号に該当する。なお、右の「広告」には、看板及び暖簾が含まれる。
原告が請求の趣旨に掲げるその余の行為は、商標法上禁止の対象とされていない行為である。
(二) また、請求の趣旨第三項の請求も、商標法三六条二項により、被告に対し、被告標章2を付した、食料品、その包装用資材、商品陳列箱、看板及び暖簾の廃棄を命じる限度で認容すべきである。
(三) そして、右により認容すべき範囲は、不正競争防止法に基づいて認容すべき範囲よりも広いから、本件では最終的に商標権侵害に基づく請求を認容すべきものである。
第五結論
以上によれば、原告の請求は、主文掲記の限度で理由がある。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)
<以下省略>